香りの知識

におい(香り)と化学構造式の関係をわかりやすく解説

【これでわかる】におい(香り)と化学構造式の関係について

kaori

香料メーカーで研究職として働いていた経験から、香りや臭いについて情報発信しています|アロマテラピー検定1級|わたしも実際に使っている香水サブスク(COLORIA、SCENTPICKなど)の紹介|みなさんとワクワクしながら香りを楽しめる「香りハピネス」なライフを目指せたらウレシイです♪

悩む人

”におい”は化合物と関係あることは何となくわかるんけど、化学構造式とは何か関係あるのかな?

そんな疑問に元香料研究職のkaoriがお答えします。

この記事を書いた人

kaoriのプロフィール画像kaori(@kaori_happines

この記事はこんな人におすすめ
  • ”におい”と化学構造式の関係について知りたい人
  • ”におい”の化学について学びたい人
  • ”におい”に興味がある人

この記事では、においと化学構造式の関係式について詳しく解説します。

結論から言うと、”におい”と化学構造式には関係があります

しかし、ほとんど同じ構造なのに全く違う”におい”がすることもあります。
不思議ですよね?

この記事を読むと”におい”と化学構造式の関係性について理解できます。
ぜひ最後までお読みください。

多少の有機化学の知識があることを前提とした解説になっています。

”におい”を化学的に理解する

「そもそも”におい”と化学って何か関係あるの?」と思った方は、まずは「においの正体を化学的に理解|分子量が350以下の揮発性有機化合物」を読むことを強くおススメします。

「”におい”とは何なのか?」というところから、わかりやすく解説しています。

におい(香り)の違いは、分子の骨格・官能基・立体異性体の違いによるもの

”におい物質”には、構造の違いにより大きく3つに分類することができます。

  • 分子の骨格
  • 官能基
  • 立体異性体

それぞれ解説します。

”におい物質”と骨格

分子の骨格による違いで、どのような”におい”がするか傾向を知ることができます。

  • 鎖状化合物?
  • 不飽和度は?
  • 環を持つ?
  • 芳香族化合物?
  • ヘテロ環?

また、生体で作られる”におい物質”は合成経路(代謝)が共通するので、似たような構造を持つものが多く存在します。

例えばテルペノイド

テルペノイドの最小単位であるモノテルペン(炭素数10)を見てみましょう。

炭素数が5のイソペンテニルピロリン酸(IPP)ジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)からゲラニル二リン酸(GPP)が生合成されます。

テルペノイドの生合成
ゲラニル二リン酸(GPP)の生合成
出典:Wikipediaより

このGPPからさらに生合成が進むと炭素数が10のモノテルペンである、ゲラニオール(Geraniol)メントール(Menthol)などが生成されます。

geraniol(ゲラニオール)
geraniol(ゲラニオール)
menthol(メントール)

GPPがさらにもう一つのIPPと反応すると炭素数が15のファルネシル二リン酸(FPP)となります。

FPPからさらに生合成が進むと炭素数が15のセスキテルペンであるネロリドール(nerolidol)ファルネソール(farnesol)などが生成されます。

trans-nerolidol(トランスネロリドール)
トランスネロリドール(trans-Nerolidol)
cis-nerolidol(シスネロリドール)
シスネロリドール(cis-Nerolidol)
farnesol(ファルネソール)
ファルネソール(Farnesol)
kaori

5の倍数ずつ炭素数が増えていることがわかりますね。

特にモノテルペン・セスキテルペンは分子量が350より小さいため揮発性が高いです。

分子量が350以上になると揮発性が低くなり、匂いがしにくくなります。

炭素数で分類した場合、同じ炭素数で官能基も同じ場合は揮発性が似ていることが多いです。

分子量が小さいほど揮発性が高いので、モノテルペンはトップノート(一番最初に香る)からミドルノート(においの中心)に寄与します。

セスキテルペンはモノテルペンより重い分子なので、ミドルノートからラストノート(残り香、余韻)の重厚な香りに大きく働きかけます。

アミノ酸も”におい物質”に関係する?!

例えば、L-メチオニンストレッカー分解(Strecker degradation)によりメチオナール(Methional)に分解されます。

kaori

メチオナールはさつまいもの香りで有名です🍠

お菓子のさつまいも味を食べると、何となく同じような香りしませんか?(失礼、調香師に怒られますね・・・)

・・・あの匂いだと思ってください(笑)

”におい物質”と官能基

同じような構造をしていても官能基が異なると、香りの質は大きく変わります(重要)。

ちなみに香料業界独特なのかもしれませんが、化合物をIUPAC名ではなく慣用名で呼ぶことが多いです。

IUPAC名を理解している人からすると、慣用名は取っつきにくいかもしれません(構造が予想しにくいから)。

同じ炭素数、同じ鎖状化合物であったとしても、アルコール・アルデヒド・カルボン酸では匂いの質がまるで異なります。

例えば、次の3つは”におい”の質が明らかに異なります。

化合物構造式匂いの質
イソアミルアルコール
(Isoamyl alcohol)
イソアミルアルコール(isoamylalcohol)蒸留酒、フルーティ
イソバレルアルデヒド
(Isovaler aldehyde)
イソバレルアルデヒド(Isovalerylaldehyde)ファッティー、チョコレート
イソ吉草酸
(Isovaleric acid)
イソバレリックアシッド(Isovaleric acid)納豆、汗臭い、チーズ
官能基による”におい”の違い

また、S(硫黄)原子を有する含硫黄化合物、N(窒素)原子を有する含窒素化合物は、それぞれ特徴的な香りがすることが多いです。

そして、閾値も低いことが多いです。

化合物構造式匂いの質
メチオナール
(Methional)
3-(methylthio)propanalサツマイモ、ポテト
4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノン
(4-Mercapto-4-methyl-2-pentanone)
4-mercapto-4-methyl-2-pentanoneトロピカル、カシスの芽、猫の尿
2-イソブチル-3-メトキシピラジン
(2-Isobutyl-3-methoxypyrazine)
2-Isobutyl-3-methoxypyrazineゴボウ、ピーマン
官能基による”におい”の違い

因みに4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノン(4-Mercapto-4-methyl-2-pentanone)は紅茶などから検出されており、かなりうすーい濃度でも”におい”がする化合物です。

別名キャットケトンとも言います。

”におい”が猫の尿🐱にも似ていて(濃度による)、かつ構造式がケトンだからキャットケトンと言います。

”におい物質”と立体異性体

立体異性体とは、構造式が同じでも立体配置が違う異性体のことです。

立体異性体には幾何異性体(シス-トランス異性体)と、光学異性体(鏡像異性体)があります。

kaori

構造がほとんど同じなのに、”におい”が全く違うって不思議ですよね。

それを理解するには”におい”を感じるメカニズムを知る必要があります。

”におい”を感じるメカニズム

step
1
”におい分子”が嗅上皮に到達

まず、鼻に入った”におい分子”は鼻腔の奥にある嗅上皮に到達します。

嗅上皮は粘液で覆われており(嗅粘膜)、そこに”におい分子”が溶け込みます。

step
2
嗅細胞が”におい”を感知する

嗅上皮には1千万個以上の嗅細胞と呼ばれる感覚細胞があり、”におい”を感知するセンサーとして働きます。

ちなみに、イヌには2億個も嗅細胞があると言われています。

step
3
におい分子受容体が”におい分子”をキャッチし、電気信号が脳に流れる

嗅細胞の先端には繊毛があって、その先端に”におい分子”を受け入れる”におい分子受容体”(嗅覚レセプター)があります。

におい分子受容体が匂い分子を捕まえると、嗅細胞が興奮し、電気信号として情報が脳の嗅球に伝わり、さらには大脳にある嗅皮質に伝達されます。

kaori
因みに、におい分子受容体の遺伝子は約1000個ありますが、実際に機能しているものは約400個だと言われています。

さて、前置きが長くなりました。

におい分子を受け取る”におい分子受容体”はキラル物質であるタンパク質で出来ています。

キラルとは右手と左手のように、鏡を通さないと重ね合わすことのできない性質のことです。

このような関係にある立体異性体を鏡像異性体と言います。

下の例は、乳酸の鏡像異性体です。

鏡像異性体
乳酸の鏡像異性体
出典:https://fromhimuka.com/chemistry/415.htmlより引用

におい分子が入りこむ(結合する)ポケットもまた、キラルになっています。

つまり、お互いのハマり方しだいで”におい”の感じ方が大きく異なるということです。

なお、鏡像異性体はd/l(斜体で書く)や(+)/(-)、(R)/(S)のような表記の仕方がありますが、優れた有機化学の教科書があるので、解説はそちらに譲ります。

有名な例として、メントール((+)-Menthol、(-)-Menthol)があります。

kaori

メントール(Menthol)は、一度は耳にしたことのある方も多いのではないでしょうか?

メントール(Menthol)は(-)-Mentholしか清涼感のある”におい”がしない!

メントールは、ハッカキャンディやミントの香りでおなじみの清涼感を感じる化合物です。

ペパーミント(peppermint)
ペパーミント(peppermint)

Mentholには3つのキラル(不斉炭素)があるため、立体化学が異なる2^3=8個の光学異性体が存在します。

8種類の異性体のうち、清涼感のある”におい”がするのは、(-)-Mentholと呼ばれる立体化学構造をもつものだけです。

たとえば、(+)-Mentholは不快臭がすると言われています。

メントール8つの光学異性体
メントール8つの光学異性体

このように、立体配置が違うだけで匂いの質が大きく異なり、モノによっては全く匂わないこともあります。

さて、勘のいい人ならお気づきかもしれません・・・。

”におい”がする鏡像異性体のみを選択的に合成できたら嬉しくありませんか?

”におい”がしない異性体があったところで、香りとしては使えませんよね。

実際、(-)-mentholについては、日本を代表する香料メーカー”高砂香料株式会社”が工業化に成功しています。

なんと、年に40万トンを超える(-)-mentholを生産しているそうです。

(-)-mentholの工業化における反応には、ノーベル化学賞受賞者である野依良治氏のBINAPという触媒を用いた不斉合成反応が利用されています。

さて、こんな質問をされたことがあります。

悩む人

光学異性体を精製できるカラムがあるって聞いたことあるけど、カラムを用いて天然のペパーミントから精製できないのかな?

回答としては・・・

kaori

カラムで精製できる量はカラム充填量に対してわずかなので、コストがかかりすぎて現実的ではありませんね・・・

まとめ:におい(香り)と化学構造式には大きな関係がある!

この記事では、”におい”の違いについて化学構造式に着目して解説しました。

有機化学の知識も必要なので、少し難しい話もあったかもしれません。

kaori

とりあえず、「”におい”は分子のちょっとした形の違いで全然違うものになってしまうんだ」ということを知っていただけらOKです。

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